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大阪地方裁判所 平成元年(わ)907号 判決 1989年9月26日

本籍

大阪府河内長野市木戸町六二〇番地

住居

同市千代田南町一六番一〇号

会社役員

植田正俊

昭和二三年七月一日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官藤村輝子出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年二月及び罰金一六〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、大阪市中央区(旧東区)淡路町二丁目四〇番地ユニ船場三〇一号において、司法書士業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、

第一  昭和五九年分の実際総所得金額が五七一八万九一四円あった(別紙(一)修正損益計算書参照)のにかかわらず、業務報酬等の収入の一部を除外して借名預金を設定するなどの方法により所得の一部を秘匿した上、昭和六〇年三月一五日、大阪府富田林市若松町西二丁目一六九七番地一所在の所轄富田林税務署において、同税務署長に対し、昭和五九年分の総所得金額が一三七五万六五六九円で、これに対する所得税額が一九二万一九〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額二六四三万二五〇〇円と右申告税額との差額二四五一万六〇〇円(別紙(四)脱税額計算書参照)を免れた

第二  昭和六〇年分の実際総所得金額が四八六六万九〇六円あった(別紙(二)修正損益計算書参照)のにかかわらず、前同様の方法により所得の一部を秘匿した上、昭和六一年三月一五日、前記富田林税務署において、同税務署長に対し、昭和六〇年分の総所得金額が一二一四万四一五八円で、これに対する所得税額が一五〇万九一〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額一八八七万四〇〇〇円と右申告税額との差額一七三六万四九〇〇円(別紙(四)脱税額計算書参照)を免れた

第三  昭和六一年分の実際総所得金額が八〇七五万五五〇一円あった(別紙(三)修正損益計算書参照)のにかかわらず、前同様の方法により所得の一部を秘匿した上、昭和六二年三月一四日、前記富田林税務署において、同税務署長に対し、昭和六一年分の総所得金額が一五一三万四八一円で、これに対する所得税額が二〇四万七九〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額三九三九万四五〇〇円と右申告税額との差額三七三四万六六〇〇円(別紙(四)脱税額計算書参照)を免れた

ものである。

(証拠の標目)

(注)括弧内の算用数字は証拠等関係カード検察官請求分の請求番号を示す。

判示全事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書

一  被告人に対する収税官吏の質問てん末書一九通

一  植田和代、植田俊一、田邊裕子、太田武(28)、広瀬晃、林俊彦、中村泰三、流郷治也及び平本盛幸に対する収税官吏の質問てん末書

一  藤浦隆男及び伊藤由子各作成の供述書

一  田邊裕子(17)及び宇野正男(37)各作成の確認書

一  収税官吏作成の各査察官調査書(9ないし11、13ないし15、20ないし22)

一  検察事務官作成の電話聴取書

判示第一、第二の事実につき

一  田邊裕子作成の確認書(16)

判示第一の事実につき

一  西野慶治に対する収税官吏の質問てん末書

一  富田林税務署長作成の証明書(4)

一  収税官吏作成の脱税額計算書(1)

判示第二、第三の事実につき

一  収税官吏作成の査察官調査書(19)

判示第二の事実につき

一  尾崎秀悟に対する収税官吏の質問てん末書

一  富田林税務署長作成の証明書(5)

一  収税官吏作成の脱税額計算書(2)

一  宇野正男作成の確認書(36)

判示第三の事実につき

一  太田武に対する収税官吏の質問てん末書(27)

一  富田林税務署長作成の証明書(6)

一  収税官吏作成の脱税額計算書(3)

一  収税官吏作成の各査察官調査書(12、18)

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、いずれも所定の懲役刑と罰金刑とを併科し、かつ、各罪につき情状により同条二項を適用し、以上の各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により罰金刑を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年二月及び罰金一六〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、司法書士業を営む被告人が、昭和五九年以降三年間に合計一億八六五九万円余りの所得をあげながら、収入の一部を除外して借名預金を設定するなどの方法により所得の一部を秘匿して申告し、右三年分合計七九二二万円あまりの所得税を脱税した事案であるが、ほ脱額は高額であり、ほ脱率も、昭和五九年分が約九二・七パーセント、昭和六〇年分が約九二パーセント、昭和六一年分が約九四・八パーセントと高率であるところ、特に昭和六〇年、六一年分については、経理担当事務員に収入が過少となるよう振替伝票を作成させるなどの悪質な仮装行為を行ったものであり、被告人が以前税理士事務所に勤務し、犯行当時は司法書士として事の重大性を認識しうる立場にあったことを併せ考慮すると、その刑責は相当重いといわざるを得ない。しかし、他方、被告人は、本件犯行後は、その非を認めて国税当局及び検察官に事実関係を素直に供述し、昭和六三年三月に司法書士会を任意に脱退するなどとして真摯な反省の情を示すとともに既に相当の社会的制裁をうけていること、今後新たに税理士の指導を受けることとして納税義務に違反することのないよう態勢を整えていること、本件ほ脱額に関し、本税、附帯税とも納付済であること、被告人は、高等学校卒業後、独学で司法書士となり、今日までの地位を築きあげて来た社会的に有為な青年であって、もとよりこれまで前科前歴もないことなど被告人のために斟酌すべき事情も認められるので、これら被告人に有利不利一切の事情を総合考慮した上、被告人を主文の刑に処するのが相当と判断する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 三好幹夫)

別紙(1)

修正損益計算書

植田正俊

自 昭和59年1月1日

至 昭和59年12月31日

<省略>

修正損益計算書

(事業所得)

植田正俊

自 昭和59年1月1日

至 昭和59年12月31日

<省略>

修正損益計算書

不動産所得

植田正俊

自 昭和59年1月1日

至 昭和59年12月31日

<省略>

利子所得

<省略>

雑所得

<省略>

別紙(2)

修正損益計算書

植田正俊

自 昭和60年1月1日

至 昭和60年12月31日

<省略>

修正損益計算書

(事業所得)

植田正俊

自 昭和60年1月1日

至 昭和60年12月31日

<省略>

修正損益計算書

不動産所得

植田正俊

自 昭和60年1月1日

至 昭和60年12月31日

<省略>

利子所得

<省略>

雑所得

<省略>

別紙(3)

修正損益計算書

植田正俊

自 昭和61年1月1日

至 昭和61年12月31日

<省略>

修正損益計算書

(事業所得)

植田正俊

自 昭和61年1月1日

至 昭和61年12月31日

<省略>

修正損益計算書

不動産所得

植田正俊

自 昭和61年1月1日

至 昭和61年12月31日

<省略>

利子所得

<省略>

雑所得

<省略>

別紙(4) 脱税額計算書

植田正俊

<省略>

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